ICL(眼内コンタクトレンズ)は、角膜を削らずに近視や乱視を矯正する手術です。

現在のICLは安全性の高い近視矯正手術の一つですが、ICLはあくまでも眼の中にレンズを入れる「眼内手術」です。そのため、頻度は非常に低いものの、重大な合併症が起こる可能性はゼロではありません。
では、ICL手術を行う眼科医が特に恐れ、警戒している合併症は何でしょうか。その一つが「術後眼内炎」です。
術後眼内炎とは?
術後眼内炎とは、手術をきっかけに細菌などが眼内に入り、眼の中で強い感染・炎症を起こす病気です。
ICL手術後に起こることは極めてまれですが、発症すると短時間のうちに視力へ大きな影響を及ぼす可能性があります。
眼内炎になると、実際にどうなるのでしょうか?

眼内に細菌が侵入すると、細菌そのものだけではなく、それに対する強い炎症反応によって、硝子体や網膜など眼の内部にダメージが及びます。
初期には、次のような症状がみられることがあります。
- ・急に視界がかすむ
- ・視力が急激に低下する
- ・眼が強く充血する
- ・眼の痛みが強くなる
- ・光がまぶしく感じる
さらに感染が進行すると、眼の中に炎症性物質や膿が増え、硝子体が濁って眼底が見えなくなるほど強い炎症を起こすことがあります。
炎症が網膜まで及ぶと網膜の細胞が障害され、感染そのものを治療できても、視力が十分に戻らないことがあります。
なぜ眼科医は眼内炎を恐れるのか
眼内炎は、単に「眼が腫れる」「感染して一時的に見えにくくなる」という病気ではありません。重症化すると、網膜や視神経などに不可逆的な障害を残し、重い視力障害につながる可能性があります。
原因菌の種類や感染の強さによっては、急速に病状が進行することもあります。極めて重症の感染では眼球全体に炎症が及ぶこともあり、非常にまれではありますが、眼球を温存することが困難になる場合もあります。
だからこそ眼内炎は、発生頻度が低くても、眼科医が決して軽視できない合併症なのです。
眼内炎が疑われたら「すぐに治療」が必要です

眼内炎は、通常の結膜炎のように「まず目薬を使って数日様子を見る」という病気ではありません。眼科的な緊急疾患です。
感染が疑われれば、原因菌を調べるために眼内の液体を採取するとともに、抗菌薬を眼内へ直接投与します。眼の内部では点眼薬だけでは十分な薬剤濃度を得ることが難しいためです。
病状が重い場合や、治療後も改善が乏しい場合には、硝子体手術が必要になることがあります。
重症の場合は硝子体手術を行います
硝子体手術では、感染した硝子体や炎症物質をできるだけ取り除き、眼内の細菌量や炎症の原因となる物質を減らします。
ICL手術後の眼内炎では、感染の状態によってはICLそのものを摘出することもあります。つまり、眼内炎が重症化すると、抗菌薬治療だけではなく、ICL摘出や硝子体手術まで必要になる可能性があります。
眼内炎になったら必ず失明するわけではありません
ここは誤解していただきたくない大切な点です。眼内炎を発症したからといって、必ず失明するわけではありません。
原因となる細菌の種類、感染の強さ、発見時の視力、治療開始までの時間などによって予後は大きく異なります。早期に発見し、適切な治療を行うことで、感染がおさまり良好な視力まで回復する症例もあります。
一方で、毒性の強い細菌による感染や、治療開始時点ですでに炎症が強く進行している場合には、治療を行っても視力障害が残ることがあります。
そのため眼内炎では、「発症させないこと」と「発症した場合にできるだけ早く治療すること」の両方が重要です。
ICL手術後の眼内炎はどのくらい起こる?
幸い、ICL手術後の眼内炎は極めてまれです。
1998〜2006年のICL手術17,954眼を対象とした報告では、眼内炎は3眼に認められ、発生率は0.0167%、およそ6,000眼に1眼でした。追跡情報が得られた2眼はいずれも治療後に視力低下を残さなかったと報告されています。
ただし、この研究は現在のEVO ICLよりも前の時代の症例を含む調査であり、この数値をそのまま現在のICL手術の発生率と考えることはできません。
2026年に発表された後房型有水晶体眼内レンズに関する214研究・45,027眼のシステマティックレビューでも、視力を脅かす重篤な合併症は非常にまれとされています。
ICL手術後に見逃してはいけない症状
ICL手術後に次のような変化があれば、次回の予約日まで待たず、手術を受けた医療機関へ連絡することが重要です。
- ・昨日より急に見えにくくなった
- ・痛みが徐々に強くなっている
- ・急に充血が強くなった
- ・かすみが急に悪化した
特に術後早期の急激な視力低下や疼痛は、眼内炎を含む重大な合併症を除外する必要があります。
「起こりやすい合併症」と「眼科医が恐れる合併症」は違います
ICLでは眼内炎以外にも、眼圧上昇、ICLの位置やvault(ICLと水晶体の間隔)の問題、白内障、角膜内皮細胞への影響などが知られています。
しかし、発生頻度が高いことと、重症度が高いことは同じではありません。眼内炎はICL手術後に頻繁に起こる合併症ではなく、むしろ極めてまれです。
それでも眼科医が特に警戒するのは、一度発症すると短期間で視力に重大な影響を及ぼす可能性があるからです。
ICLは手術そのものだけでなく「術後に対応できる体制」も重要です
ICLを検討するときには、「どのレンズを使用するのか」「手術時間は何分か」「費用はいくらか」といった点に目が向きがちです。もちろん、それらも大切です。
しかし眼科医の立場から見ると、それと同じくらい重要なのが、万が一、術後に異常が起きたときに迅速に診察・治療できるかという点です。
ICLは良好な視力が期待でき、重篤な合併症はまれな手術です。しかし、どれほど安全性が高い手術であっても、合併症が100%起こらない手術はありません。
私たちは良好な視力を得ることだけではなく、「万が一の合併症を予防し、起きた場合にはできるだけ早く発見し、視力を守る」というところまで含めてICL手術だと考えています。
参考文献
- 1.Allan BD, et al. Endophthalmitis rates after implantation of the intraocular Collamer lens: survey of users between 1998 and 2006. J Cataract Refract Surg. 2009;35(4):766-769. PMID: 19304102.
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